IoTの基盤となる
5G通信の鍵
GaN
社会の低炭素化、スマート化を
実現する次世代の半導体結晶
待ち望まれているのに
誰も創れなかった結晶
CLBOは偶然の産物から最高性能を持つ結晶へと育った。これは閃きと勘がド真ん中に決まった「ピッチャー型」の研究と言えるだろう。一方で「バッター型」の研究もある。打てば間違いなくヒーローになれるとわかっているのに誰も打てない球に挑んでいく研究スタイルだ。社会ニーズに応える工学らしい研究でもある。結晶にもそんな球があった。待ち望まれているのに誰も創れなかった、GaNの高品質結晶だ。
青色LEDだけではない
GaNの素晴らしい素質
GaNは2014年にノーベル物理学賞が贈られた青色LEDの材料である。だが、それだけの利用ではもったいない素晴らしい素質を持っており、原子配列に欠陥のない結晶化に成功すればこれまでにない特性を発揮し、電気自動車の性能を高める「次世代パワーデバイス」や5Gの通信品質を高める「次世代高周波デバイス」の材料に使えることがわかっていた。
パワーデバイス、
高周波デバイスに最適な材料
GaNの特性は原子同士の結合が強いことから生じる。原子と原子のつながりが強いと波長の短い光を出すから青色LEDになるし、薄く加工しても結合が壊れないから抵抗が低くてエネルギーロスの少ない半導体になる。大きな電力を制御するパワーデバイスに最適の材料なのだ。さらに電子を速く動かせるから広い帯域の高周波を出すことができ、5Gの高周波デバイスとして期待されている。
なぜ誰も創ることが
できなかったのか
原子の結合の強い結晶は組み立て(育成)が難しい。ほんの少しズレたり欠損したりしてもそのままつながってしまい、やり直しがきかないからだ。青色LEDも、GaNという素材に可能性を見出してもなかなか創ることができず、それを実現できたからノーベル賞が授与されたのだ。パワーデバイスや高周波デバイスの材料となると、要求されるレベルは格段に高く、パーフェクトなGaN結晶など不可能だと誰もが諦めていた。
御法度だったナトリウムで
窒素をキャッチ
GaNが将来モノになる材料だという確信はあった。しかし、具体的な方法はわからない。常識の延長上に答はなく、困難の連続だったが、研究開始から20年を超えてようやくこれだという育成法にたどり着いた。いくつかの発想の飛躍が必要だった。まず最初に目をつけたのはナトリウムを使うこと。ナトリウムはシリコンの中に入ると誤動作を引き起こす。半導体の世界では御法度だったが、窒素の分解触媒として着目。ガリウムとナトリウムの液相に窒素ガスを高温高圧で溶かし込みながら結晶を育成させた。
育成途中の結晶を
じゃぶじゃぶする
それがファーストステップ。次に、土台の上に直接結晶を育成するのではなく、並べた種結晶から育成した結晶をつなげて大きくするという奇抜な方法を考案。さらに、結晶構造のムラをなくすために、育成途中の結晶をじゃぶじゃぶと溶液から何度も出して成長方向を整えるという、常識を180度覆すアイデアを思いついたことがブレークスルーとなった。実用化が可能な6inch(15cm)サイズの高品質GaN結晶の育成法を世界で初めて確立した。
誰もできなかったことが
新しいアイデアで可能になる
森ゆ研は、不可能だと言われていることがあれば挑戦する。誰もできなかったことが新しいアイデアによって可能になることを実際に証明してきた。困難であれば困難であるほど、他の追随を許さないオリジナリティーの高い成果を出せる。しかも結晶は、根幹であるハードテクノロジーを革新し、世の中をガラリと変えてしまう可能性を秘めている。GaNが真価を発揮するのもこれからだ。